作家
Orly Castel=Bloom
オルリ・カステル=ブルーム
作家紹介
1960年テルアビブに生まれる。エジプト生まれの両親は、その地の多くのユダヤ人共同体と同じくフランス語を母語として暮らしていたため、イスラエルで生まれたオルリも、家庭ではフランス語を使っていたという。兵役後にテルアビブ大学とベイト・ツヴィ・インスティチュートで映像学を学ぶ。1987年、短編集『繁華街にほど近く』 が出ると、<ポストモダンの旗手あらわる>と、斬新な内容とキレのいい文章が評判になった。以降、創作スタイルにも意匠を凝らし、古語的な文学修辞を廃してしゃべり言葉で、短編集や長・中編を上梓してヘブライ文学を牽引している。長編に『私はどこ』、『ドリー・シティ』、『ミナ・リサ』、『エジプト人の物語』ほか。短編集に『おぞましいあたり』、『冬の暮らし』ほか。テルアビブ大で創作を教え、ハーバード大、NY大、オクスフォード大、ケンブリッジ大ほかで講義している。
1492年の、スペインのカトリック両王による「ユダヤ教徒追放」で流浪し辛酸をなめてガザに辿り着いたスファラディ系の父祖をもつ父、母親の祖先はモーセに率いられた「出エジプト」を拒否してエジプトに留まったという、自らのルーツを辿るかたちのファミリー・サーガ『エジプト人の物語』(2015年)でサピール賞を受賞したほか、国内外の賞を数多く受賞。作品集は15言語で翻訳出版されている。
イスラエル人女性のほとんどが家の外に仕事をしている割に、女性作家の多くは家庭や男女をテーマにする。しかし、オルリ・カステル=ブルームは、夫婦親子間の軋轢や女に生まれた恨み節や、フェミニズムを唱えない。戯画的に教育ママを、あるいは、各国在住のユダヤ人の生態を皮肉に醜悪に描くことはあるが、持ってまわった難解な文脈を避け、平明な語り口で社会通念や常識、貴族趣味や衒学的な物言いを小気味よく皮肉る。現実と幻想の狭間を描いたり、リアルな、あるいはシュールな世界を描出し、ユダヤ人が信奉してきた「文学」でインテリの深層心理を揶揄してみせる。オルリ・カステル=ブルームの作品を読むと、ヘブライ文学がイスラエルに根づいたことを、そして、コスモポリタンで諧謔好きなユダヤ性は消滅していないことを感じとることができる。
(作家写真 🄫Leonardo Cendamo)