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アート×公共 「エルサレム形のない図書館 Intangible Library of Jerusalem」

「もしあなたに庭と図書館があるなら、あなたは人生に必要なものを全て持っている」-キケロ
日常の中の小さな発見、東京・神楽坂とイスラエルを繋ぐ「エルサレム形のない図書館」

―鈴木歩(ディレクター・ギャラリスト)

新型コロナウイルスによる感染症の拡大により、多くの人々がステイホーム生活を強いられた2020年。世界中の数々のアートやデザインイベントが中止になった。そんなことを予期していたかのように開催していた展示がある。
イスラエルの若手建築家リラハ・シタヤットとダニエル・ザルヒィがデザインした「エルサレム形のない図書館」、神楽坂駅からほど近いメイン通りに面して建つAYUMI GALLERY、その前庭の大きなケヤキの木を取り囲むように設置されたパブリックアート作品だ。 2019年秋から一年間限定公開され、道行く人々に親しまれてきた。一際目を引くポールの林立は遠くから見るとドーム型になっていて、エルサレムの街を象徴する丸屋根の風景を意図している。さらにこれら庭全体が聖地「エルサレム」の縮図となっていて、約50のQRコードからスマホを通して、エルサレムの風景、音、日常生活について見たり、聞いたり、学べるようになっている。庭の西側のポールにあるQRコードを読み取ればエルサレム西部へ、東側のQRコードからはエルサレム東部へと繋がる。

地域に根ざした屋外空間、街と人、文化を繋いでいく

リラハとダニエルは、本を作る街でもある神楽坂のこと、この庭の歴史や中央のケヤキの木をリスペクトしながら、東京とエルサレムの街と繋ぐ「エルサレム形のない図書館」という新たな空間を生み出した。私たちは移動できなくとも、この庭で束の間の休息と知識を得、遠い地の活気やさまざまな文化を感じることができる。エルサレムの街は夜明け前から忙しそうだ。
このプロジェクトは、「デザイナートトウキョウ(2019)」での『エルサレム・デザイン・ウィーク』の一環だったこともあり、本来ならば昨年秋に終了し撤去する予定であった。しかし、じつはイスラエル側との話で、何かアップサイクルできないかと現在も検討中である。アップサイクルとは、もともとの形状や特徴を活かしつつ、新しいアイデアを加えることでモノの新しい価値を生み出す取り組みである。
世界がバラバラになりつつあるこの状況を見据え、今我々が国境を超えて繋がり、また公共にもたらせることは何だろうか。この地域に根ざした空間を通し、今だからこそ彼らともうしばらく考えて行きたいと思っている。

【家の中にイスラエルカルチャーを】⑦「エルサレム 形のない図書館」 https://youtu.be/otDNQw_yX88

プロジェクトHP:https://libraryofintangibles.com/

年配の男性人の肖像画

(写真: Yulia Skogoreva)

鈴木歩 Ayumi Suzuki

ディレクター、ギャラリスト。1983年東京都生まれ。ヘリット・リートフェルト・アカデミー卒業。ギャラリー勤務などを経て、2016年より登録有形文化財でもある「AYUMI GALLERY」の運営を引き継ぐと同時に現代美術ギャラリーの「CAVE-AYUMI GALLERY」をオープン、国内外の新鋭アーティストを紹介する。また、アーティストインレジデンスや神楽坂の路地裏の景観を守る建物の保存活用事業も行う。
▶︎http://www.nest-a.tokyo

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