リンカ

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©Dita Amiel

 リンカはずっと前から、こんなことのあとでは生き続けられない、と悟っていた。他の人たち、彼女より年上の知者、タデウシュ・ボロブスキ、パウル・ツェラン、プリーモ・レーヴィ、イェジ・コシンスキ、ボグダン・ヴォイドフスキ(註1)たちより、はるか以前に気づいてしまっていた。彼らのように自らの魂に手をかけた。2度、命をとりとめられたが、彼女は自分の選択が正しいと信じて頑固だった。そして、3度目に、この素晴らしい世界から永遠に姿を消し去った。
 リンカはたったの18歳だった。海のような緑青色の、アーモンドの形をした目、輝く漆黒の髪、やっと歓びをしりそめた女らしい豊かな肉体。
 リンカの葬儀は大降りの雨の日で、「天さえも彼女を悼んで泣いている」とありきたりの言葉がとびかった。わたしはリンカより4歳年下だったが、彼女は間違っていない、正しいことをした、と思っていた。自分にはない、彼女の勇気にわたしは憧れた。
 1945年、ドイツのとある難民キャンプでのことだった。リンカの棺のあとを濡れそぼって、靴に貼りついてくる黒い泥土に凍えた足をとられながら、わたしたちはのろのろ進んだ。彼女を思い、そして、じつのところは自分たち自身を思って泣いた。だって、炎が杉の木を焼きつくすのなら、杉の木についた取るに足らない苔に、なにを言うことができよう……。彼女は美しく才にあふれ、歌も踊りも上手だった。しかも彼女には本当の母親がいて、あたたかくてきれいな服や食べものやお菓子を届けてもらっていたのだ。
 若者たちは花の蜜に引きよせられる蜜蜂のように、リンカに惹かれた。彼女のまわりに群がり、どんな仕草も見落とさないように努めて、リンカのきまぐれにつきあっていた。噂が流れた。強制収容所にいたころ、ハンサムなSSの男がリンカに入れあげてRassenchande(異種族混交)さえ厭わないほどだったが、彼女はあざけって男の求愛をはねつけ、男はその報復にリンカの弟のミェテクを撃ち殺した、と。

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