ぎゅっと抱きしめて

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Illustration by Michal Rovner

「かわいい子」と、母さんがいいました。
  母と幼い子はふたりで、夕暮れの野原を散歩しています。
「おまえみたいにかわいい子は、どこにもいないわね」
「ほんと? ぼくみたいな子は、どこにも、ひとりもいないの?」息子のベンは聞きました。
「そう、いないわね」母さんがいいます。「おまえはたったひとり、特別な子だもの」
  ふたりは、ゆっくり歩いていきます。頭の上を、コウノトリの大きな群れが飛んでいきます。よその国に渡っていくのです。
「だけど、どうして?」そういって、ベンは立ちどまりました。「ぼくみたいな子は、世界のどこにもいないなんて、なぜ?」
「なぜって、それぞれみんな、たったひとりで、特別だから」母さんはにっこりして、地べたに腰をおろしました。「こっちにおいで」
  母さんは、犬のペレにもそばにすわるよう、合図の口笛を吹きました。
「ぼく、たったひとりになんて、なりたくない」ベンはいいました。
「なりたくないなんて、どうして? たったひとりって、とてもすてきじゃないの」と母さん。
「でも、そしたら、ひとりぼっちってことだもの」ベンはいいました。「ぼくに似た、だれかがいてほしいよ」
「ひとりぼっちじゃないでしょ。母さんがいるし、父さんもいっしょなのよ」母さんがいいました。「そばにきて、お座りしてごらん」
 でも、ベンは立ったままです。目がいきなり、大きく見ひらかれました。
「それって、母さんみたいな人は、世界のどこにもいないってこと?」
「そうね」母さんがいいます。
「じゃあ、母さんも、ひとりぼっち?」
「いいえ、ひとりぼっちじゃない。おまえがいるし、父さんもいるし……」
「でも、母さんにそっくりな人は、ひとりもいないんでしょ?」
「いないわね」と、母さん。
「じゃ、母さんはひとりぼっちだ」ベンがいいます。「でしょ、ひとりっきりでしょ?」
 母さんは微笑んで、地面に指で、ぐるぐる、渦を描きました。
「ちょっとだけ、ひとりきりで、ちょっとだけ、みんなといっしょ……それが、ちょうどいいのね。ちょっとひとり、そして、ちょっとみんなといっしょが」

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