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ぎゅっと抱きしめて

Illustration by Michal Rovner
小さなアリはやっと列にもどり、ほかのアリたちといっしょに歩きだしました。アリのそばを行く二匹の大きなアリが、父さんアリと母さんアリかもしれない、とベンは思いました。
「みんな、それぞれ、世界で、たったひとりなんだね?」とベンがいいました。
「それぞれ、みんな、ひとりだけの存在ね」母さんがいいました。
「じゃ、みんな、ひとりぼっち?」
「みんな、少しだけ、ひとりぼっちで、でも、みんなといっしょでもあるの。ひとりきりでもあり、いっしょでもあるのね」
「どうして、そんなこと、できるの?」
「ほら、おまえはたったひとりで、特別な存在でしょ」と、母さんがいいました。「そして、母さんもひとりきりで、特別な存在でしょ。でも、母さんがおまえをぎゅっとしたら、おまえはひとりぼっちじゃないし、母さんもひとりきりじゃなくなる」
「じゃ、ぎゅっとして」そういうと、ベンは母さんに抱きつきました。
母さんはベンを、ぎゅっと抱きしめました。ベンの心臓がドクドク、力づよく打っているのを、母さんは感じました。ベンも母さんの鼓動を感じて、母さんを、ぎゅうっと、力いっぱい、抱きしめました。
「ぼくはもう、ひとりぼっちじゃない」母さんに抱きしめられながら、ベンは思いました。「いま、ぼくは、ひとりきりじゃない」
「ね」と、母さんが囁きました。「こういうとき、ぎゅっと抱きしめるのよ」*
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